海水注入中断 首相の行動徹底検証せよ
2011.5.24 03:38
政治主導に固執した菅直人首相によって、原発事故が拡大したのではないかという疑念が強まっている。「人災」が疑われる以上、首相の行動を徹底的に検証しなければならない。
問題は、東日本大震災翌日の3月12日に行われた東京電力福島第1原発1号機への海水注入が一時中断されたのは首相の言動がきっかけではないかという点だ。
23日の衆院復興特別委員会で、首相は海水注入が始まった段階で東電から報告を受けていなかったと主張した。「報告が上がっていないものをやめろとかやめるなとか言うはずがない」と、自身や官邸で協議していたメンバーによる中断指示を否定した。
だが、注入を知らなかった首相が激怒したために、東電が作業をストップさせたとの証言もあるという。「言うはずがない」との説明では到底不十分だ。
班目(まだらめ)春樹・原子力安全委員長が「再臨界の危険性がある」と進言したのが中断に関係したと細野豪志首相補佐官が述べた。これを班目氏が強く否定し、1日で説明が訂正される混乱もみせている。
緊急事態の下、1号機の原子炉を冷やすための海水注入が1時間近く中断したのは揺るぎない事実である。冷却が継続されていれば短期収束への可能性も残されていただけに、事故原因の分析上、極めて重大なポイントだ。
同じ3月12日早朝、首相がヘリで行った第1原発の視察とベント(排気)の遅れとの関係などについても、検証が不可欠だ。
具体的には、国会が憲法などに定められた国政調査権を発動し、東電や政府関係者の証人喚問や資料提出を求めるべきだ。偽証罪など強制力を伴う調査によって事実を解明してもらいたい。
首相が設置を約束してきた事故調査委員会も、より高い独立性を求められよう。透明性のある事故検証を行わなければ、日本に対する国際社会の同情は無責任さへのいらだちに変わり得る。
国政調査権については、衆参両院の予算委員会が昨年、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で海上保安庁が撮影したビデオ映像の提出を求めた例がある。
首相答弁を「嘘の上に嘘で塗り固めている」と批判した自民党の谷垣禎一総裁は、調査権の発動を各党に働きかけ、速やかな真相解明を主導すべきだ。