午後8時消灯なので、その前には病室を出ました。
しかし、妻が不安がるので1階のロビーで30分。
9時には睡眠薬を飲む予定です。
放ってはおけないとはいえ、数日前までは、そこらへんの男たちよりも激しいスキーをやっている妻です。
実際、看護士さんが身体を測定したときに、見かけとは違う筋肉隆々っぷりに驚いていました。
「逃げ出してしまえばこんな思いはしなくていい」と何度も思いました。
妻も同じ思いでしょう。
しかし、病魔は限界を越えていて、徐々に妻を蝕んでいる。
それでも、四六時中一緒に過ごしている妻です。
どこからどこまでが自分で、どこからどこまでが妻なのかも分からないくらいなのに、社会的には私と妻は分けなければならない。
妻が、せめて駐車場にいて欲しいというので、今日は駐車場で過ごします。
不意に妻の病室のカーテンが開き、妻の影がブンブンと手を振ります。
いつまでも、いつまでも。
両手で、片手で手を振ります。
もうこらえられませんでした。
妻からの他愛のないメールに応え、他愛のないメールを返しては、妻の影を見て泣きました。
もう同じ日々にはならないことを思い、泣きました。