二転三転「海水注入」…政府は東電に任せきり
東京電力福島第一原子力発電所1号機への海水注入中断問題は、注水が継続していたことが判明し、説明を二転三転させた政府の情報の信頼性を一層傷つけた。
26日開幕した主要8か国(G8)首脳会議(サミット)に出席している菅首相に対する国際社会の視線も、厳しさを増しそうだ。
「具体的に『誰に聞いたか』とチェックする問題意識は、なかった」
26日夕の政府・東京電力統合対策室の記者会見で、細野豪志首相補佐官は、今月21日に海水注入をめぐる「事実関係」を発表するにあたり、東電関係者への聞き取り調査は首相官邸に常駐していた元副社長の武黒一郎フェローに任せきりだったことを認めた。
政府は「事実関係」の発表翌日の22日にも、修正を迫られている。内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長が自らの発言として記載された内容に異議を申し立てたためだ。
原発事故をめぐる検証に必要な調査や連絡を怠ってきたツケが、政府の信頼を失墜させている。
菅首相は震災直後から東電の事故対応に不信を抱き、3月15日には首相の肝いりで政府と東電の統合対策室を設置した。だが、今回の事態はそれから2か月以上を経ても、東電との情報共有やチェック体制がなお十分に機能していないことを浮き彫りにした。
東電が科学的妥当性よりも首相官邸の意向を重視しようとしたことは、東電の体質の問題とはいえ、首相がこだわる政治主導の危うさも見せつけた。
にもかかわらず、政府の危機意識はなお低い。
枝野官房長官は26日夕の記者会見で、東電の対応について、「事実関係を正確に報告してもらわないと、我々も対応に苦慮するし、国民が疑問、不審に思う」と不快感を示した。一方で、「少なくとも隠す必然性を感じられない話だ」と述べ、意図的な情報隠しではないとの見方を強調した。
菅首相が、福島第一原発の吉田昌郎所長に「全幅の信頼を置いている」(首相周辺)ことが影響しているようだ。政府内には「結果的には注水を続けた方が良かったので、継続の判断は正しかった」との声すらある。
しかし、国会では23~25日の3日間にわたり、衆院東日本大震災復興特別委員会などで「海水注入が中断された」という誤った事実を前提に議論が行われていた。
政府は月内にも事故調査・検証委員会を発足させて、事故の本格的な分析・検証に着手するが、「このままでは、今後の検証作業の信頼性も損なう」との指摘は政権内からも出ている。
(2011年5月27日08時52分 読売新聞)