原発の「高齢化」、前例なき領域へ-関電は今後5年で4基が40年に
8月26日(ブルームバーグ):関西電力美浜原子力発電所2号機は来年、運転開始から40年を迎える。今年3月の東京電力福島第一原発の放射能漏れ事故後、長期稼働する原発の安全性を確認する高経年化対策を最初に受ける可能性が高い。問題がなければ10年間の稼働が可能になるが、50年にわたる原発は世界に例がない。福島第一1号機は40年目の更新が認められた翌月にメルトダウンを起こした。
電気事業連合会のウェブサイトによると、高経年化対策の対象は運転開始から30年を経た原発。高温や高圧の部分があり、長期使用で配管の内部が減ったり、ひび割れが生じたり、絶縁体が痛んだりするなどの劣化が起こるという。このため、30年を経過すると10年ごとに新たな損傷や劣化が発生しないかなどの技術評価を実施して安全性を確保することになっている。
国内の原発は全54基(出力合計約4900万キロワット)で、5年後の2016年末までに運転開始から30年目と40年目を迎え、高経年化対策を受ける原子炉は25基あり、うち8基は1972年7月に運転開始した美浜2号機と同じ40年目の検査となる。
福島の事故で原発の安全性への不安が高まり、新設が難しくなる中、既存設備の運転を継続すれば老朽化に伴い安全性への不安が高まるとの指摘もある。一方、高経年化で廃炉にすれば、さらなる電力供給不足につながる恐れがあるほか、多額の処理費用が必要になる。
古い原発は補修費や効率面の問題も
九州大学の出光一哉教授(原子力工学)によると、古くて発電能力の低い原発の運転継続では、補修費用がかかるほか、メンテナンス中は発電できないなど、コストや効率面の問題があるという。高経年化の原発をどう扱うのかについては、電力各社が安全性やコスト問題などを検討しながら「難しい経営判断を迫られる時が来る」と話した。
これまで日本原子力発電の敦賀1号機、関電の美浜1号機、東京電力福島第一1号機が昨年から今年にかけて技術評価を受け、稼働延長が認められた。関電は美浜2号機について7月22日に高経年化の技術評価の実施と長期の保守管理方針の策定を発表し、福島の事故後では初めて運転継続を認めるかどうかの判断を受けることになる。
今後5年で運転開始から40年を迎え、新たに高経年化技術評価を受ける8基のうち4基を保有する関電の八木誠社長は9日に美浜原発で記者団に対し、福島原発事故の原因について、政府は「直接的には高経年化による影響はないという判断をしている」と述べ、高経年化した原発への対応の手続きについて福島事故を受けた原発事故調査・検証委員会の新たな知見が出てこなければ「特段、変更手続きはない」と語った。
電事連のウェブサイトによると、日本では原発の運転年限に関する取り決めはなく、耐年数という概念もない。廃炉にするかどうかは、運転継続の場合との経済性などを電気事業者が総合的に判断して決めるとしている。その上で、日本の原発では最新技術を導入した設備・機器への取り替えを行っていることなどから「運転年数が増えるからといってトラブルが多く発生するというようなことはない」という。
耐用年数は当初30-40年の想定か
東京大学の井野博満名誉教授(金属材料学)は、原発の耐用年数については使用状況などの条件で変わるため一概に決めることは難しいと前置きした上で、美浜原発1、2号機など70年代前半に完成した原発に関して「当初の耐用年数は30-40年と想定されていたのは明らかだ」と指摘する。
日本の軽水炉原発では、約32年で運転を終了した日本原子力発電の東海発電所のほか、中部電力浜岡原発1、2号機も30年余りで発電の役割を終えている。
圧力容器は古いまま
井野氏によると、日本では96年に原発を運転できる上限が60年間に延長された。米国でも同時期にそれまでの40年から60年に引き上げられたといい、新設への反発が高まってきたことなどによる措置ではないかとしている。古くなった原発では電気配線などの交換はできても圧力容器そのものは取り換えることができないため「古いまま」で、「時間が経つにつれて危険が高まっていくのは明らか。40年という上限は守られるべきだ」という。
ロンドンに本拠を置く世界原子力協会によると、世界で最も古い稼働中の原発は67年と68年から運転している英国のオールドベリー原発1号機と2号機。40年以上稼働する原発は世界に21基あるが、稼働年数が50年に達したケースはまだない。
井野氏は、高経年化技術評価を担当する経済産業省原子力安全・保安院の原発に対する基本的な考え方は福島事故後も変わっていないと話す。「ストレステスト」が美浜2号機の検査に少し影響を与える可能性はあるが、大きな変化はなく、これまでの3基と同じように稼働延長が認められるのではないかとみている。
更新日時: 2011/08/26 00:01 JST