特集ワイド:節電の夏を振り返る 「国民総出」で目標達成、疑問の声も
◇そもそも必要だった?
◇緑のカーテン エレベーター休止 サマータイム…
風も秋めいて、暑さはどうやら峠を越えたようだ。東日本大震災による福島第1原発の事故で「15%節電」が叫ばれたが、どのくらいの効果があったのか、そもそも本当に電気は足りなかったのか--この夏の「節電始末記」をまとめてみた。【井田純】
政府の掛け声に、報道も手伝ってか、節電ムードに包まれた今年の夏。
街では、電気が消えたままの看板や自動販売機、ビルに入れば休止のエレベーターが目立った。オフィスではエアコンの設定温度が上がり、蛍光灯が間引かれた。製造業では、電力消費を平均化してピークを抑えるため、輪番休業で対応した会社が多いが、業態によっては苦労した企業もあったようだ。
「乾いた雑巾を絞る、とまでは言いませんが……」と節電努力を振り返るのは、居酒屋チェーンなどを展開する、ワタミ(東京都大田区)の担当者だ。温暖化対策などのため、04年から電力消費量の可視化による省エネに取り組んできた同社では、節電余力が逆に限られていた、ということらしい。
店舗の客席照明をLED(発光ダイオード)に換えたほか、約500人が勤務する本社ビルではエアコンを時間指定制に。エレベーター利用は原則として朝の通勤時のみ、しかも6階以上の階だけ--との制限を設け、「目標を超える18%削減を達成した」という。
あの手この手の工夫は官公庁も変わらない。庁舎の暑さ対策として、ゴーヤなどの緑のカーテンを導入した自治体も多かった。
東京都武蔵野市は今年から南側庁舎入り口脇と西側で、ゴーヤとアサガオの栽培を始めた。「緑のカーテンの中と外では1~2度気温が違う。目にも涼しいと市民にも好評です」と小島麻里管財課長。これまでに収穫されたゴーヤは300本以上。当初は販売して被災地向けの義援金にでも、との声もあったが、「税金で栽培したものを売ることはできない」ため、来庁者に分けているそうだ。
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節電対策として就業時間を前倒しするサマータイム制を実施する企業が増えた中、「アフター4」需要を当て込んだビジネスも活況を呈した。飲食チェーンのプロント(東京都港区)は、アルコール飲料などバーメニューへの切り替えを午後4時からに1時間半前倒しし、朝は早めの出勤客に対応するために開店時間を15~30分繰り上げた。
従来は「2次会使い」の客で遅い時間にピークが来ることが多かったというが、「早い時間に勤務を終え、グループで来てさっと帰られる方や、女性の『おひとり様』客も増えた」と同社広報担当者は話す。震災による売り上げ減を心配していたものの、午後4~7時の時間帯で前年比プラスの売り上げを記録しているという。
博報堂生活総合研究所の夏山明美・上席研究員によると、震災の影響で自宅にこもり気味になる人がいる一方で、逆に外出が増えた人もおり、二極化傾向がうかがえるそうだ。「余震が続いたこともあって、特に首都圏の1人暮らしの人は、何かあったとき人の多い場所にいる方が安心という心理が働いた。また、1人の部屋でエアコンを利かせて過ごすことに罪悪感を覚える人も多かったのかも」。これも、ある意味では節電意識の反映ということか。
電力不安をビジネスチャンスに変えた企業も多い。家庭用蓄電池を開発したエジソンパワー社(千葉県木更津市)は、4月に家電量販店を通じて販売を始めたところ、一時は月産500台の生産ラインをフル稼働させても需要に追いつかない状態となった。家庭用コンセントから充電可能で、非常用電源として利用できるこの製品、顧客に多かったのは、在宅で医療機器を使う患者がいる家庭という。同社では来年の需要も見込んで、太陽光発電で充電できる製品の開発を進めている。
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政府は、東京電力・東北電力管内の大口需要家に対し、最大使用電力の15%削減を義務付ける電力使用制限令を7月1日に発動したが、電気需給が逼迫(ひっぱく)する懸念が薄れたことで、当初予定を繰り上げて今月9日までに解除する。公的にも一段落を迎えるわけだが、さて、あたかも「国民運動」の様相を呈した節電、実際の効果はどれほどだったのか--。
東電は震災直後の3月時点で、今夏の最大電力を5500万キロワットと想定した。記録的猛暑だった昨年夏の消費電力ピークより約500万キロワット低い数値だが、その時点では7月末の供給力見通しを4650万キロワットと発表。「供給力が最大電力を大幅に下回る」として、節電ムードが醸成された。
実際には、供給力は7月末までに5600万キロワットを上回り、消費のピークは4922万キロワット(8月18日)にとどまっている。同社広報は「昨年のほぼ同じ気温、湿度の時との比較で約1000万キロワットの減。節電にご協力いただいた成果が出た」と説明する。
数字を単純に信じれば、15%以上節電を達成したということになる。だが、「そもそも電力は足りていた」と主張するのは、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長。自然エネルギー推進に向けた研究・政策提言を行う飯田さんは、「東電と経済産業省は、需要を過剰に、供給力を低く見積もることで、『原発を再稼働しないと停電が起きるぞ』という脅しを行った」と批判する。
飯田さんによると、昨年の最大電力が5999万キロワットといっても、5900万キロワットを上回ったのは年間8760時間のうちわずか5時間。5500万キロワットを超えたのが165時間で2%程度に過ぎない。「そのピークをいかに抑え込むかが問題なのに、そのための効果的な政策を打ち出すのではなく、とにかく15%節電、100万円罰金という、非常に不適切な方法をとった」。東電が大口需要家と結んでいる需給調整契約の活用などで対応できたというのだ。
そうは言っても、節電自体はいいことですよね? 「それはそうですが、節電は大変だった、暑くて暗くて我慢ばかり、という印象とセットになって記憶されてしまうのはマイナス。経済界も、原発という脆弱(ぜいじゃく)なシステムに電力を依存していたからこそ起きた計画停電なのに、その事実をころっと忘れ、『電力安定供給のために原発は必要』という逆転した論理に陥ってしまうのも理解に苦しむ」
とはいえ、「脱原発のため」と節電に努めた人も少なくないはずだ。節電のあり方を考えるのは、原発について考えることでもある。放射性物質に汚染された福島の現状を見つめながら、来年以降のことも考えたい。
毎日新聞 2011年9月5日 東京夕刊
そろそろ、今年の夏の総括は欲しいところですね。
ただでさえ、計画停電によって交通事故で亡くなった人が居たのにもかかわらず、総括されることはありませんでした。
「緊急事態」であったことを理由に、全てが有耶無耶になったままです。
東電や経産省はイヤなのでしょうが、電力が足りていたのか、不足していたのかの検証無しに次のステージに進むことは許されないのではないでしょうか。
>昨年の最大電力が5999万キロワットといっても、5900万キロワットを上回ったのは年間8760時間のうちわずか5時間。5500万キロワットを超えたのが165時間で2%程度
これが、史上最高の暑さを記録した夏の現実です。
その上で、しっかりと検証して欲しい。
もう一ついえば、毎月のように電気代が燃料費の高騰を理由に値上がりしています。
ちなみに、うちのガス会社は円高差益によって値下がりします。
本当に燃料費の高騰ですか?
それも含めて検証して欲しいです。