東京電力、大リストラへ 切られるのは王国の民か?(前)
2011年10月 4日 13:28
東京電力でこれから大リストラが始まる。政府は、新設した原子力損害賠償支援機構(以下、賠償支援機構)を通じて、福島第一原発の事故被災者救済のための賠償資金を東電に交付する予定だが、そのためには、東電が身を切るようなリストラ策を盛り込んだ特別事業計画を策定し、所管の枝野幸男経産相に認定してもらわなければならない。
東京電力に対する厳格な資産査定(デュー・デリジェンス)に取り組んできた「東京電力に関する経営・財務調査委員会」は10月3日、最後の委員会を官邸で開催し、下河辺和彦委員長(弁護士)が、本文170ページ、付属資料50ページの総計220ページにもなる大部の委員会報告を野田佳彦首相に提出した。同委員会は、賠償支援機構を通じて国費を東電に交付するにあたり、国民負担(国費)を可能な限り軽減するために東電の経営をどう改め、リストラ余力がどれだけあるのかを調査するため作られた第三者委員会だ。委員会自体に法的な根拠はないが、7人の委員全員が、新設された賠償支援機構の運営委員に横滑りするため、この委員会報告は、「東電が今後、特別事業計画を策定するにあたって、たたき台になる」(下河辺氏)という位置づけになる。
委員会報告によれば、東電が自主的に作って持ってきたリストラ策は、あまりにも切り込みが甘かった。まず東電は5月、5,034億円の合理化計画を発表していたが、委員会がその内訳を検証したところ、前年度と今年度を比較した上での経費削減ではなく、原発事故前に策定していた今年度予算対比の削減額にすぎなかった。だから、福島第一、第二原発の運転停止に伴う費用の減少1,103億円などが平然と計上されていた。
さらに東電は2020年度までの今後10年間で累計1兆1,853億円のコスト削減を実施すると申し出たが、委員会が精査したところ、修繕費や資材調達費、人件費などでさらに切り込める余地が大きいとして、10年間で総額2兆5,455億円のコスト削減が可能と試算した。東電の自己査定の2倍も、コスト削減の「のりしろ」ができそう、というのである。
委員会がとくに注目したのは、巨大な調達企業である東電の殿様商売ぶりだった。発電機やタービンの修理は、日立製作所や東芝などメーカーに直接依頼すればいいものを、全体の24%強にこれら大手メーカーの代理店が介在していた。年間修繕費4,000億円のうち4社の代理店が1,000億円もの受注に介在しており、甘い汁といえる手数料が代理店に落ちる仕組みだ。しかも、東電のグループ会社には、東電本体からのミルク補給によって経営が成り立っているところも少なくなかった。発電工事では、必ずグループ会社が一次下請けになる慣行があり、そこで手数料が落ちる仕組みである。こうした、親会社にたかる仕掛けによって、グループ会社は本来なら赤字のところを黒字にすることが可能だったのである。
次回から、委員会が提言したリストラ策を見ていく。