玄海原発 圧力容器「欠陥の可能性」
2011年10月03日
九州電力玄海原発1号機の原子炉圧力容器の鋼のもろさを示す脆性(ぜい・せい)遷移温度が急上昇している問題で、唐津市議会が県に安全性の検証を求める意見書を可決、玄海町議会でも一般質問で取り上げられるなど、地元の関心が高まっている。温度上昇の理由について、東京大学の井野博満・名誉教授は朝日新聞との会見で、「圧力容器の材質不均一の可能性がある。欠陥圧力容器ではないか」と新たな見解を示した。
1号機は、1975年10月に運転を開始、国内でも老朽化が進んだ原発のひとつ。九電は、原子炉圧力容器内に装着した監視試験片をこれまで4回取り出し、核分裂で生じる中性子照射による脆化の進み具合を調べてきた。その指標となる脆性遷移温度は1993年の3回目の取り出しでは56度だったのが、2009年4月の4回目には一挙に98度へと上昇した。
98度は全国の原発の脆性遷移温度の中でも最も高く、玄海1号機は「日本で最も危険な原発のひとつ」ともいわれている。
井野名誉教授は「中性子照射で脆性遷移温度が56度からいきなり98度に上がることは理屈上あり得ない」と指摘。「圧力容器を構成する鋼材には銅0・12%、ニッケル0・56%が含まれているが、銅の含有量が不均一のため急上昇したのではないか」と、圧力容器の材料に問題があるとの見方を示した。
また、九電が7月11日に公表した監視試験片の生データを分析した結果、長さ約4メートルの原子炉圧力容器の鋼の板を溶接して貼り合わせる溶接部分周辺(熱影響部)の脆性遷移温度が約10度で、鋼材本体(母材)の温度を大きく下回っていることも突き止めた。
井野名誉教授は「熱影響部は母材と同じ材料でできているので、母材と同じ温度になるはず。これも圧力容器の材質が不均一なせいではないか」と指摘。脆性遷移温度上昇の原因をはっきりさせるため、九電が脆性遷移温度の測定に使用した監視試験片を大学などの研究機関に送って詳しく調べることを提言した。
これに対して、九電は「玄海1号機の脆性遷移温度上昇についての当社の見解は既にホームページで公表しており、井野名誉教授の分析に対して改めてコメントすることはない」としている。(田中良和)
◇脆性遷移温度◇
鋼は一定の温度以下になると、粘りがなくなり、衝撃に対して非常に弱くなる。この境目の温度のこと。原子炉圧力容器の配管が地震などで破裂すると、冷却水が失われ、緊急炉心冷却システム(ECCS)が作動、冷却水が注入される。その時に原子炉圧力容器の鋼が脆性遷移温度以下だと、容器が壊れ、大量の放射性物質が外部に放出される危険がある。