荒川区だけ放射線独自測定せず 区長 東電と“密接”な関係?
(東京新聞「こちら特報部」10月15日)
福島第一原発事故の後、区市町村で独自に学校や公園などの放射線量を測定する動きが広がっている。国や都道府県の対応が不十分なためだ。そんな中、東京23区内では、なぜか荒川区だけが「測定の必要はない」との方針を打ち出している。区民から測定を求める声が噴出しているが、なぜ区は“独自方針”を貫くのか。 (出田阿生、秦淳哉)
区長「安全だから不要」
「荒川区は、大気中の放射線量をはじめ、プールの水も砂場も学校給食も、すべて『安全だから測る必要はない』と言っている。放射能は目に見えないから、いたずらに怖がるだけでなく冷静に対処するためにも、身近な放射線の値を知りたいのに」。同区に住む四歳と八歳の子を持つ母親の森明美さん(39)は、こう話し始めた。
今月、下の子が通う保育園で運動会が開かれた。開会式で同区の西川太一郎区長(69)があいさつ。「放射能の心配は全くない」「食べ物も安全で、何の心配もない」と保護者に呼びかけたという。森さんは「測ってもいないのに、なぜ断言できるのか。根拠のない安全宣言は余計に不安です」と訴える。
足立、葛飾、江戸川、江東区など、都内でも東部は放射線測定値がやや高めの傾向にある。荒川区の隣、文京区では、小学校の落ち葉で作った堆肥から国の暫定規制値の三倍超のセシウムを検出。同じく隣接する北区では、小学校の敷地内で毎時一マイクロシーベルトを超える放射線量が計測され、除染が実施されることになった。
「地元で細かく計測しなければ、除染もできない」と、荒川区の保護者らは区や区議会に再三働きかけてきた。区内の市民団体は七月、独自測定を求める約四千人分の署名を区長に提出。同区PTA連合会は八月、放射能問題への対応について区長に説明を求める要望書を出した。
住民「根拠なく余計に不安」
今月十二日には商店主らも加わり、「汚染牛肉が市場に出回り、国民は疑心暗鬼になっている。区が計測器の導入を」などとして、約千三百人分の署名を提出した。
荒川区内での測定は、今年六月に都が実施した一斉測定(荒川区は一カ所)、八月の首都大学東京による独自測定(同六カ所)だけだ。六月と九月の定例区議会では、複数の区議が独自測定を求めたが、区側は「測定機器の精度、測定技術、専門的知識の必要性などの見地から、都健康安全研究センターの一括調査と公表が望ましい」と繰り返した。
たとえば、区議会の委員会で総務企画部長の答弁はこうだった。
「マスコミではある意味ヒステリックというぐらいの非常にいろいろな情報が流れた。そうした中、区としては専門性が必要と考える」「風評被害を含めて、安易に私どものような素人が測定すること自体が、案外リスクがある」
「それならば専門家に頼んで計測すればいいだけの話」と憤るのは、「荒川区の子どもの未来を考える会」代表の筑本知子さん(46)。同会が二十三区を調べたところ荒川区以外は保育園や幼稚園、区立小中学校、児童館や公園などを中心に大気や土壌の放射線量を計測。砂場の砂の入れ替えなどの対策をとっていた。
東電と〝密接な関係〟
「こちら特報部」の調べでは、定点測定の区が大半だった。定点以外でも「都の測定は区内三カ所だけで説得力がないので、できる限り多数の地点を計測した。今後もやる」と江東区の担当者は話す。
なぜ、荒川区はかたくなに測定しないのか。関係者の多くが「区長の強い意向」という。保守系区議ですら「なぜ区長はそこまで意固地になるのか」といぶかる。
西川区長は都議を四期務めた後、一九九三年に衆院議員に初当選。三期務め、小泉政権時の二〇〇二年に発覚した東京電力のトラブル隠しでは、安全点検で原発が一時全基停止した際、経済産業副大臣として節電対策や原発運転再開に奔走した。〇四年に区長に就任し、現在二期目。
震災後 社員招き中学生向けに講座
荒川区教委が今年八月、区内の中学生四十人を対象に開いた「今、中学生が立ち上がるとき~東日本大震災から学ぶ中学生講座~」の講師の一人には、東京電力上野支社の社員が呼ばれた。テーマは「電力の需給状況について」。
さらに首都大学東京の福士政広教授も「放射能への対応について」と題して授業をした。福士教授は「原子力エネルギーをエネルギー資源の一つとして利用していることを理解するとともに、環境放射線等の風評被害に惑わされない、正しく、安全な原子力エネルギーの利用方法と生活とのかかわりについて理解する」と冊子に記した。
ちなみに福士教授は四月、本紙にも「東京周辺の線量は全く問題ない。放射線を心配しすぎると、ストレスを高め、免疫を抑えて、かえってがんになりやすくなるかもしれない」などと発言。荒川区の斉藤裕子区議は、この中学生講座について「原発事故の原因企業や、一方的な立場の学者を講師にするのはどうか」と疑問視する。
保養施設 指定管理者に系列企業
また今月、荒川区の保養施設「清里高原ロッジ・少年自然の家」の指定管理者に、「尾瀬林業」が初めて選ばれた。同社は東電が100%出資するグループ企業。そのため区議会では「なぜこの時期に」と、参入を疑問視する声も出ている。
西川区長は「こちら特報部」の取材申し込みに対し、広報課を通じて「報道各社からこの問題で取材要請を受けているが、どの社の取材も受けていないので、個別の面談には応じられない」と回答。コメントを出すことについても「放射線量測定について『区民の声』への回答文という文書が、すべての内容を網羅している」とした。
この回答文には、西川区長が特別区長会長として、都に全域測定を要請した経緯が述べられ、都と首都大が一回ずつ測定した区内の数値を挙げて「いずれの数値も健康に影響を及ぼす量ではない」ことを根拠に、「現時点で荒川区独自に測定を行う必要はないものと判断している」と記されている。
前出の筑本代表は「荒川区は、測定は国や都道府県の役割と主張するが、それでは何も進まない。できることをやって住民を守るのが、自治体としての責任ではないのか。きちんとした測定と情報公開が、不安感をぬぐう一番の手段だ」。
<デスクメモ> 建前はもっともなことを言っても、本音は責任逃れで保身を図るリーダーが多い。「国がやるべきことだ」「三権分立を君はどう考えているの」「自ら社長になったわけじゃない」。腹をくくることもできない、説明も決断もできないトップを抱えた組織は大変だ。正直な部下はどうしたらいいのだろう。(立)
国家というのは、「国民の権利を委託されている」と唱え、イギリスの名誉革命を擁護し、のちに市民革命のベースとなる考えを広めたのがロックということは、中学生で学びます。
ですから、国家が国民の権利を守ってくれないのなら、国家を変えてよい、とも言っております。
それを穏便に行うのが、リコールだったりするわけです。
多くの人は、今現在はそう思っていないようですけど、今は国家の非常時です。
放射能の測定、食品への暫定規制値の問題。
これらのことは、国家と国民の関係というもっとも基本的な部分の問題です。
いままでルーズにしてもよかったことですが、今の日本は、国家の成り立ちの根幹部分が問われています。
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