ソニー、一般家庭1日分の電力が貯められるリチウムイオン蓄電システム公開
ソニーエナジー・デバイスは12日、福島県本宮市の本宮事業所にて、リチウムイオン電池ビジネスの事業説明会を実施。その中で、一般家庭1日分の電力が貯められる、リチウムイオン電池の蓄電システムの試作機を参考展示した。
1日の家庭の電気がまかなえるリチウムイオンの蓄電池
今回公開された蓄電システムの試作機は、ソニーが4月に発表・出荷を開始したリチウムイオン電池の蓄電モジュール「IJ1001M」を利用したもの。IJ1001Mは1.2kWhの電池容量を備えており、長寿命と高い安全性能、1時間で90%以上という急速充電性能を特徴としている。また、モジュール同士を複数接続することで、用途にあわせて電圧や容量のカスタマイズも可能となる。
試作機ではIJ1001Mを8台連結することで、合計の電池容量を9.6kWhとしている。同社では、「一般家庭の1日の消費電力量を約8kWhとして、この蓄電システム1台でまかなえる」としている。
試作機ではまた、事業所の屋外にある太陽電池から充電し、貯めた電力を館内の照明に利用するデモも実施された。太陽光発電パネルの定格出力は5kW。
システムは8台のIJ1001Mのほかに、全体の運転を統括するコントローラー、直流の電気を交流に変換するインバーターも搭載されている。電化製品を使用する場合には、本体後部にある用意タップにコンセントを接続する。出力は正弦波。
別の試作機として、IJ1001Mを2台搭載した、容量2.4kWhタイプも参考展示された。こちらは本体にモニターが備えられており、バッテリーの使用可能時間や充電のパーセンテージなどが表示できる。主にオフィスでの使用が想定されており、デスクの下に入れて使用できる。
同社では、1台のパソコンを20時間以上稼動(消費電力100Wの場合)できるだけの電池容量を備えるとしている。会場では、薄型テレビとパソコン、扇風機を、蓄電池からの給電で稼動していた。
もっとも容量が少ないタイプとしては、IJ1001Mが1台だけ搭載された蓄電システムも公開された。こちらはスピーカーやデスクトップパソコンのようなケースの中に入っており、すぐには蓄電池と気づきにくいデザインとなっている。
ソニーのリチウムイオン電池は“秘伝のタレ”採用。5,000サイクルの利用も
ソニー常務執行役員SVP プロフェッショナル・デバイス&ソリューショングループ デバイスソリューション事業本部の石塚茂樹本部長は、ソニーのリチウムイオン電池に関する特徴として、「高い安全性」と「長寿命・高信頼性」を指摘した。
安全性については、材料の不純物を徹底して排除し、また製造工程で異物を発生させず、万が一混在しても、検査工程で異変を検知して市場に出るのを防ぐ「技術・製造・管理」の3点を挙げた。
「リチウムイオン電池は、高いエネルギーを小さな体積に詰め込んでおり、しかも電解質は可燃性で、取り扱いには非常に注意が必要。2006年に当社はノートパソコン向けのバッテリーについて大規模な市場回収を行なったが、そのときにいろいろな教訓を得た。全社的に細心の注意を払っている」(石塚氏)
長寿命・高信頼性については、電池の正極材に「オリビン型リン酸鉄」という素材を採用。酸素を放出しにくいため燃えにくく、また結晶構造が強固なため、5,000サイクルでも80%以上の容量が維持できるという。IJ1001Mでも、オリビン型リン酸鉄が採用されている。
石塚氏によると、オリビン型リン酸鉄を採用した電池は他社でもあるものの、ソニー製品には“秘伝のタレ”と呼ばれる材料・構造上の特徴があるため、同じオリビン型リン酸鉄を採用した電池でも、他社よりもさらに長寿命になるという。
「電池は使い続ければ必ず劣化するが、市場に投入されているリン酸鉄リチウム2社の製品と比べても、サイクル特性は違う。この差がソニーの“秘伝”の部分、パテント(特許)の部分になる」(石塚氏)
石塚氏はまた、蓄電池を購入する際には、メンテナンスや電池の交換費用を含めた“ライフタイムコスト”が重要であることを指摘。「電池のコストパフォーマンスを語る場合、“1Wh当たりいくら”という表現があるが、これはあくまでも初期容量の場合の話。今、何百万円もする電池を載せた電気自動車が出始めているが、何年かすると、電池の性能は落ちる。容量が12Whで2,000回繰り返しできる電池と、初期容量は8Whだが5,000回使える電池となると、10年使った場合で差が出てくる。そうなると、3年で交換するか、10年で交換するか、というのはこれから大事な概念になる」と、繰り返し使用回数におけるソニーのリチウムイオン電池のメリットを強調した。
ポリマーセルタイプは“膨らまない”“形が選べる”が特徴
このほか、スマートフォンなどで多く採用されているラミネート型のリチウムイオン電池「ポリマーセル」の特徴については、膨れにくく、自由なサイズが選べる点がメリットであるとアピールした。
「あまり知られていないかもしれないが、ポリマー型の電池は使っていると少しずつ膨らんでくる。しかしソニーの電池は特殊なゲルを使っており、他社と比べてもふくらみが抑えられている。また、小さな電池や大きな電池など、機器に合わせた多様なバリエーションが作れる点も特徴」(石塚氏)
ポリマーセルでは新たに、EV(電気自動車)向けのリチウムイオン電池も開発が進められているという。導入時期は「2010年年代半ば」(石塚氏)の予定。定置型の蓄電にも応用できるとしている。
地震と津波で被害を受けた多賀城事業所から、バッテリーの電極製造を移管
説明会ではまた、東日本大震災により被害を受けたソニーエナジー・デバイス社の各事業所の復旧状況についての説明も行なわれた。同社では、宮城県の多賀城市と登米市、福島県の本宮市と郡山市、栃木県の栃木市と鹿沼市に計7つの事業所を設けているが、震災によって建物の天井が落ちるなどの被害が発生し、一時操業を停止。その後、福島県と栃木県の事業所では4月中に通常稼動、宮城県でも一部で営業を再開している。
しかし多賀城事業所については、地震に加え津波の影響により、建物と設備に甚大な被害が発生。そのため、バッテリー電極の生産を本宮に、プロジェクターで使用される無機偏光板を登米に、それぞれ移管する。多賀城についてはブルーレイディスクなどディスクメディア、磁気テープの生産を継続するとともに、敷地の一部は、地域事業復興の場として地域に無償で提供される予定。
説明会が実施された本宮営業所では、新設された4号館にて、多賀城から移管となったバッテリー電極の製造を行なう。4号館の建物西側が正極、東側が負極を製造するラインとなっており、いずれも3階で投入した材料を2階で混合し塗布、1階でプレスして出荷するという手順となる。
〔家電watch〕