父、手術の日。
身内に癌になったものが今まで居ないので、家族全員が「胃全摘」に対してのイメージが湧いているのか不安が残るものの、その日は来てしまった。
妻の入院中に、「こんなはずでは」と言っていた患者を多く見てきていたので、妻と私のように術後の生活のイメージを作っておくことが大切だと思っている。
それでも、予想外のことがいっぱいあって、まあ、2人でジタバタとやってきたけれども、これもイメージが出来ていたからマシなのだろうと感じている。
父はもちろん、同居する母も弟も、そのイメージを作る努力が足りないように見えて、ともかく不安。
病室に行くと、父は戦闘準備中。
リラックスをしているようにも見えるけれども、緊張しているようにも見える。
なんとなく、妻の手術前とダブる雰囲気があります。
手術着に着替え、血栓を防止するための白いタイツを履いたら準備完了。
なんとなく、白いタイツを履いた親父は滑稽です。
看護婦は唐突にやってくる。
別に唐突でもなんでもないのかもしれないけれども、なんとなく唐突に感じるんですね。
奥のエレベーターから手術室の前に。
手際が悪く、早くついた割には待たされて、どんどんと手術を受ける患者とその家族が溜まっていきます。
男ばかり、老人やおっさんが、血栓を防止するタイツを履いているのが不思議な光景です。
やがて一人呼ばれ、二人呼ばれ、父が呼ばれます。
万が一の場合には、これが今生の別れになるのかもしれないのですが、なんとも呆気なく奥に吸い込まれていきました。
脊髄にカテーテルを通して麻酔を流し込み、次に全身麻酔をして手術開始となるはずです。
開腹して転移が見られたら手術は中止となり、持たされたピッチに連絡が来ることになっています。
万が一のそれには母は立ち合わせたくないので、手術の時間が長いことを口実に母と弟を家に帰すことに。
弟は気が利かないヤツなので帰るのが嫌そうでしたが、兄の眼力は偉大なのでスゴスゴ帰っていきました。
あとは妻といつものように2人。
もう役に立つかも分かりませんが、研究資料として買っておいたものを読んだり、飽きてウロウロしたり、少しウトウトしたりしながら6時間。
予想よりも早く、母と弟が来ました。
さらに1時間ほどして、根性無しの弟が言い訳をしながら席を外して間もなくピッチが鳴ります。
まもなく出てくるとのこと。
相変わらず、弟は間が悪い。
手術室前に上がっていくと、すぐに執刀医の先生。
明らかに血塗れのブツを抱えています。(汗)
ブツを見るのは遠慮をして、手術の経過を聞きました。
まあ、父母弟の身勝手を掻い潜りながらも、できる限りの準備はしたので大丈夫だろうとは思っていましたが、安心しました。
やがてドアが開いて出て来る親父。
仲の悪い親父でも、ホッとするもんです。
食道が引っ張られるのか、麻酔のせいなのか、言葉が不明瞭でしたが「分からないうちに終わった」というようなことを言っていたように思います。
これからの戦いのことを思うと、ひねくれものの兄夫婦は素直に喜べませんでしたけど、母や弟は喜んでいるので、それはそれで良かったのでしょう。