関わってしまうと覚悟を決めれば早いものです。
こういうとき、妻がほとんどまったく同じ気持ちで居てくれることが救われます。
夜中のうちにドンキーで買い物をし、スリッパやゼリー飲料や茶を購入。
重たくて、2リットルのペットボトルは持てないというので、500ミリリットルを10本強購入。
もう死んでしまうのだから、私と妻も小さな酒を買うことも検討したのですが、結果として発覚したときに父が母や弟にいろいろ言われることを考えて断念。
まだ、母を病院で父に会わせることは諦めていません。
保険屋の次に100円均一に寄って、柄の太目のスプーンやフォーク、もう使うことは無いだろうけれども箸などの小物類や小包装となっているお菓子類を購入。
胃は切除されていて、1日に5食や7食にして、少量ずつ食べるようにという指示だったのに、3食では全く足りません。
買い物をしながら、モノというのは人生の彩りなのだと改めて感じました。
病院に行ったら、父は食事中でした。
昨日、箸が上手く使えなくなっている父に、妻がフォークやスプーンで食べることを教えたのですが、今日はそれが食べやすかったのかフォークで食べていました。
昨日から疑問に思っていたのですが、父の身辺には衣類が全くありません。
下はオシメなので仕方ないとはいえ、パジャマの下のシャツや靴下などは病院のレンタルなどもなく不思議に感じていました。
見ると、昨日と同じです。
打ち合わせ通り、妻が「お父さん、下着とか靴下とかはどうしてるの?」と聞くと、しばらく間があったあと「どうしてるのかなぁ」とひと言。
暴れ者の私の前では弟のことは悪く言いたくないようで、いつもこんな誤魔化しをします。
妻が、小さな物入れの中を掃除し、主治医との面会へ。
昨日、父の容態を聞きたいと言ったところ、キーパーソン(弟)の同席か許可が無いと話せませんとのことだったので、弟に連絡を入れさせておきました。
40歳前後の主治医。
会うなり「弟さんには聞いていないのですか?」と最初から横柄。
次に「私も5日前に、前の病院からお手紙を頂いたのを読んだだけ」。
当たり前のように言える感覚に驚きました。
病名等もお手紙(紹介状等を指すと思われる)を読んだだけと、父の電子カルテも見せる。
そこには、前の病院の病状説明を転記したと思われる数行の文があるだけ。
「ここに書いてあるのは、胃の全摘を行い………と言うことのようです。」
と文を読み上げられ、「肝臓の転移した癌からの黄疸が出ていますとのことなので、あとわずかです。」で終わろうとする。
驚いたことに、この医師からの見立てが何一つありませんでした。
転院翌日にCTを取っているはずですが、それさえも目を通していないのでしょう。
食い下がって、「父が昨日家に帰れるということを言っていたのですが、一次的に帰れるのでしょうか?」と聞くと、「いつでも退院していただいて結構。その場合、在宅の…」と言い出すので妻が遮る。
やっと話が通じたことを要約すると、食事がとれていないから栄養剤の点滴を打っているけれども「どうせ間もなく死んじゃうのだから」本来は必要ない。
弟の希望で、父には病状を知らせていないので、希望的なことを言っているから帰れると思っているのでしょう。
昼間の一時帰宅は「どうせ間もなく死んじゃうのだから」したければどうぞ。
間食について聞いても「どうせ間もなく死んじゃうのだから」、食べたいものを食べさせてください。
自分でも、だんだんと髪の毛が逆立っていくのがハッキリと分かりました。
妻もだんだんと目が釣り上がっていくのが分かりますし、2人とも語尾がきつくなってしまいました。
弟に任せている部分にあまり介入したくはないのですが、弟は父の死について抗うこともなく、ハイハイと聞いていただけなのでしょう。
最後に、「一般論で構わないので、この状況での余命は?」と聞くと、長い長い前置きのあとに「1ヶ月」と言われました。
父は父なりに自分の運命に抵抗しようとしているのか、「腹が減っているけれども食べれない」「腹が減った」と、それこそ食べている最中にも言っていた。
食が細くなっているわけではなく、食べたい気持ちもまだまだあるのに、ここはそれさえも理解していない。
医師との面会が終わっても、父の元にはしばらく戻れませんでした。
「滋賀に連れていく?」とも妻は言ってくれました。
踏まねばならぬ段階があるので、とりあえずは検討することにしましたが、私も妻も寿命が来る前に病院と弟に殺されるというのが率直な意見でした。
感情がもつれて母は家を出て、恨み言のように父のことを「死んじゃえ」と言っていたことは知っていましたが、母に忠実な弟は、必要最低限のことだけをして、罪悪感もなくそれを実行しているようにさえ感じました。
「食べたいものは無い?」「無くなったら弟に買ってこさせるから」等々と言っても、「言ってもアイツは買ってきてくれないんだよ」と何度も言っていて、自分にこんな感情が残っているとは思ってもいませんでしたが涙が出てきました。
私が、本格的に弟に腹を立てていることを父も察したのでしょう。
話しを切って、父は横になりました。
こんな状況でも弟は可愛いかと思うと、つくづく虚しくなりました。