脚光浴びる地熱発電 規制緩和、掘削コストが課題
2011年8月17日(水)08:00
原子力発電所約20基分の電力を生み出すことができる日本の地熱資源量。だが、その8割は開発規制のかかる国立公園の地下に眠ったままだ。地熱資源の有効活用を目指し、政府は昨年、景観保護を条件に規制緩和に踏み切った。東京電力の福島第1原子力発電所事故をきっかけに、原発に過度に依存したエネルギー政策の見直しは避けられず、純国産エネルギーの開発が加速する。
◆2000メートルで5億円
青森、秋田、岩手3県にまたがる十和田八幡平国立公園の境界線からわずか300メートル。活火山の焼山の火口から上る蒸気を見ることができる秋田県鹿角市の澄川地熱発電所で、新たな井戸の掘削が行われている。
狙うは、国立公園の深さ2500メートルにある豊富な地熱資源。景観に配慮し、「地下から攻める」作戦で発電所敷地内から国立公園の地下へと斜めに掘り進む。同発電所の出力は5万キロワットだが、井戸の目詰まりが影響して蒸気量が減少し、現在は3万キロワット台に低下している。新たな掘削で年内に5千キロワット分の蒸気を獲得し、さらに井戸の本数を増やす計画だ。
昨年まで、国立公園は地下調査すらできず、指をくわえて見ていた状態だった。斜め掘りの「解禁」で、地熱開発は大きな転機を迎えたが依然、乗り越えるべき課題が存在する。コストの壁だ。
斜めに掘れば井戸は長くなり、開発コストが跳ね上がる。それでも、千田正弘所長は、国立公園の資源を得られるのならば、「コスト負担を補って余りある」とそろばんをはじく。
しかし、一般に地熱発電の1キロワット時当たりの発電コストは約20円で、石炭火力の2倍以上。発電所の建設に数百億円、資源量調査から試掘、掘削、プラント建設、運転開始まで10年以上かかるのも足かせだ。井戸を1メートル掘るごとに約20万円、2千メートル級の井戸を掘る資金は「4億~5億円」(業界関係者)に上る。
資源量調査や試掘の技術が向上しているとはいえ、「大量の蒸気が出る井戸からわずか50メートル離れた地点で、全く蒸気が出ないケースがある」(同)など、リスクも高いビジネスだ。
◆「地球がボイラー」
こうした中で、発電コストを7円程度に抑えているのが国内最大の九州電力・八丁原(はっちょうばる)発電所(大分県九重町、1、2号機で11万キロワット)だ。昭和52年の運転開始から20年近くかけて初期投資を回収し、現在も電力を安定供給している。
大分市内から車で約2時間。九重連山の標高1100メートル付近に入ると、発電所が真っ白な蒸気の柱を何本も噴き出している。敷地内には約100本の井戸があり、200~300度の熱水を取り出している。大分県内の水力発電の2倍の3万~4万世帯分の供給力があり、大分県を自然エネルギー自給率で全国トップの座に押し上げている。
地下の蒸気をエネルギーにする地熱発電は、「地球がボイラーの役割」(秋好真人所長)を果たし、燃料が不要。原発事故に加え、火力発電で使う石炭や原油の高騰を背景に地熱発電の優位性は高まる。日本地熱学会会長を務めた九州大大学院の江原幸雄教授は「安定的な電力供給ができる自然エネルギーは、地熱のほかにない」と強調する。
日本地熱開発企業協議会は、東北や九州などの蒸気量が多い地域(31地点中28地点)では、1キロワット時当たり9・2~18・3円で発電可能と試算する。地熱発電は、再生エネルギー特別措置法案の対象になっており、買い取り価格が同20円程度になれば、普及に弾みがつくとの見方は強い。