食品企業の放射能対策、主要35社アンケート――多くの企業が政府まかせ、後ろ向きの情報公開
11/09/13 | 12:18
「大手企業になればなるほど、何も教えてくれない」。東京都目黒区に住む主婦Aさんは憤る。幼稚園児を抱えるAさんは、福島第一原子力発電所の事故以降、子どもが口にする安全な食材を求め悩むばかりだ。
少しでも情報を得たく、食材の産地や水質について20社以上の「お客様相談室」に問い合わせた。だが、「政府が安全だと言っているから安全」というしゃくし定規の回答がどれだけ多いか。丁寧に教えてくれるのは中堅以下の企業が多かったと嘆く。
原産地表示が義務化されている生鮮品と違い、加工食品や外食、中食はブラックボックスだ。放射能汚染が拡大する中、企業はどのような対策を行っているのだろうか。そこで『週刊東洋経済』は子供が口にすることが多い菓子や乳製品を中心に35社の食品、外食、小売企業にアンケートを実施した。
・5、6ページにアンケート結果の一覧表を掲載
質問したのは「主要製品の国産原料使用状況と主な産地」「放射線測定の有無と実施方法」「測定器の種類」「チェルノブイリ事故時の対応」の4項目に加え、(1)福島第一原発事故後に寄せられた消費者からの問い合わせの内容と、(2)食品汚染対策での政府への要望、(3)原料の調達先の切替えの有無の7項目。非回答は味の素、森永製菓、モンテローザの3社だった。
放射線測定検査を実施していないのは、ローソンなど6社。主な理由は「農畜産物、水道水、環境放射線量については行政が公表しているため新たな対応はなし」(江崎グリコ)、というもの。だが、その行政こそ、消費者が最も信頼していない機関だ。
放射性セシウムによる牛肉の汚染問題では、政府の検査体制が穴だらけで汚染牛肉が全国に広まった。7月末に農林水産省が発表した都道府県別の食品検査の実施状況では、3月19日から7月28日まで一度も検査をしていない自治体が14都県、100町村に上る。
これを受け厚生労働省は8月24日に食品の抜き打ち調査の開始を発表したほど。放射能問題に対する政府の姿勢を、国民の多くが信用していないのは明らかなはず。行政頼みで食品の安全を担保できないのは、消費者にとって常識になりつつある。
一方、25社が「検査を実施している」と答えたが、内容には大きなバラツキがある。小売業界は取扱品目が多いという事情もあり、「実施している」と答えた3社2団体のうち、セブン&アイ・ホールディングスとイオンが測定している品目は、牛肉だけ。
スーパーは、総菜など自社である程度管理が可能な商品もあるが「材料が多くいちいち原産地を気にしていたらきりがない」(首都圏に展開する食品スーパー)と対策に消極的だ。であるならば、自分たちもよくわからないものを消費者に提供していることになる。
検査機器に関しては、誤差が少なく、含有される核種まで特定可能なゲルマニウム半導体検出器を導入している企業が多かった。シンチレーションサーベイカウンターやサーベイメーターは簡易検査用で、核種の特定などが難しい機器だ。
(3)の調達先の変更には、不二家の「行政による出荷制限や出荷自粛の対象となった地域の原材料は使用していない」に代表される回答がほとんど。ここでも、行政の検査頼みの企業姿勢が見られる。
政府には「特になし」 沈黙貫く食品業界
消費者からの原産地や製造年月日を問う電話やメールは、多い企業で月400件程度。企業は消費者の不安を肌で感じているはずだが、政府への要望については、「特になし」(ヤクルト)、「一企業であり、国の方針に対して意見を申し上げる立場にない」(森永乳業)と沈黙を貫く企業が18社もあった。
要望書を提出している生協を除くと民間企業ではゼンショーのみが「国の暫定規制値を安全基準にしている企業は、お客様から信頼されないのが現状。国際的に最も厳しい基準に照らし、全国民が納得する規制値を設けてほしい」と国の基準の改善を注文している。
一方で、水面下では多くの企業が対策に右往左往しているという。大手広告代理店で食品メーカーのブランディングを担当する女性は、対外的には「対策を取っていない」と言いながらも、実は政府より低い基準値を設けるなど、独自策を設けた企業もあると打ち明ける。
隠すのは、「独自策を取ることで、安全をうたう政府に『お上に盾突いている』と思われてしまうから、競合と足並みをそろえたいという思いもある」と言う。
多くの企業が及び腰の中、頭一つ抜けているのはネスレ日本とダノンジャパンの外資組だ。
世界最大手のネスレ(スイス)は、1986年のチェルノブイリ原発事故以降、世界中に10台のゲルマニウム半導体検出器を配備。今回の震災でも、3月17日に厚生労働省が食品の暫定基準値を設定する前から測定器導入を準備した。
日本国内では、4月1日から全工場で製品や水の測定を開始。ネスレ日本では輸入原料が多く汚染の可能性は低い。それでも実施に踏み切った背景を「ゼロだというデータを実際に数値として出して初めて消費者は安心するため」と高橋雅樹・執行役員兼品質本部長は説明する。また、「ゲルマニウム半導体検出器は1500万円程度。他の検査器からすれば安いもの」と付け加える。
ダノンジャパンは、安全策を整備するまで工場をストップさせた。ヨーグルトを生産する館林工場(群馬県)は震災から4日後の3月15日に完全復旧したが、操業再開は測定器を設置し終えた22日。多くの企業が復旧後直ちに生産を再開していた中、「安全を最優先に考えるべき」(大羽哲郎・品質保証部長)と考えたためだ。現在も、ヨーグルトの全ロットを検査している。
とはいえ、外資でも検査結果の数値は非公表だ。詳細を公表することで「寝た子を起こす」と懸念しているため。アンケートでも自主検査自体はしているとしながら「詳細は社外秘」(キリンホールディングス)などあいまいな答えも目立った。
全品目調査しネットで公開 安全策徹底する生協
検査結果の数値を公表しているのは、パルシステム生活協同組合連合会と生活クラブ事業連合生活協同組合連合会(以下、生活クラブ)のみ。両生協ともに、放射線測定への取り組みの長さは筋金入りだ。チェルノブイリ事故以降、「放射能汚染測定室」を開設、継続的に検査を行っており、測定ノウハウもある。
生活クラブでは「政府の大まかな検査では納得できない」と、9月からは全600品目にわたる全品検査を開始、検査結果を汚染度別(5段階)に分けてホームページ上で発表していく。
「チェルノブイリ事故当時のスウェーデン、ドイツなどでは規制値が徐々に厳しくなった。今後は市民団体やNGOの基準を調べていき、独自の基準値を設定していきたい」(石井明・業務副部長)としてさらなる強化策も検討する。
国が定めた暫定規制値1キログラム当たり2000ベクレルは、他国と比較して高すぎるという指摘も多い。チェルノブイリ事故後のドイツでは、幼児は同4ベクレル、成人でも同8ベクレルとしている。放射線防護の専門家である日本大学の野口邦和専任講師は「外部被曝、内部被曝ともにゼロに限りなく近くするのが基本中の基本」と訴えるが、企業の姿勢を見ると、その基本がいかに難しいかがわかる。
「今は政府と企業のなれ合いで消費者不在」と、消費生活アドバイザーの村山らむね氏は指摘する。「放射性物質を避ける・減らす・排出するの3点を念頭に、消費者自身が小まめに食品情報を収集するしかない」と村山氏は提言する。
アンケート結果を見ても、多くの企業が消費者ではなく業界と政府だけを考えていることがわかる。内部被曝の健康影響はまだわからない部分が多い。食品企業は消費者の口に入るものを提供している以上、積極的な対策と適切な情報公開を打ち出すべきだが、望み薄なのが現状だ。
【 アンケート結果の一覧表1 】
【 アンケート結果の一覧表2 】
このアンケート調査は、企業の姿勢を見る上でも永久保存版だと思います。
放射線の測定ですが、ザクッと書いてしまうと
ゲルマニウム半導体検出器>シンチレーション式
で、装置の金額も桁違いに違ってきます。
またGM管式というのは、食料品を測ることも難しいようですし、高線量のところ意外ではあまり使えないようです。
(まだよく分からない…)
原材料は調べていたり、委託しているところも多いようですが、水に関してはノーガードのところも多いようですので、とくにふくいち周辺県のものには注意が必要だと感じています。
味の素と森永製菓とモンテローザは不買だな。